自己破産の非免責債権に関する最高裁判決の解説。神奈川県厚木市・横浜市の法律事務所が管理しています。

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カードの虚偽申請により非免責債権

 

最高裁判所平成12年1月28日判決です。

クレジットカードの申込時に、債務額について虚偽の申請をしたことで、カードの利用債務が、非免責債権の「悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償請求権」になるとして、支払義務が残るとしたケースです。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.4.14

破産法253条は、破産による免責が許可されたとしても、支払義務が残る債権を列挙しています。

そのうちの一つが、

破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

です。


この「悪意」とは何かが争われるケースもあるのですが、本件は、これを認めたという事例です。

事案としては、クレジットカード会社との利用契約の際に、当時、11社から約290万円の債務を負っていて、一部支払を遅れている状態にあったのに、申込書の借入欄には銀行の債務50万円しか記載しなかったというものです。

その後、自己破産の申立により、免責は認められたものの、クレジットカード会社から、訴訟を起こされたという事例です。

原審の東京高等裁判所では、破産者の手取り収入が約13万円程度、カード申込時の毎月の返済額が約12万円だったこと、支払が既に遅れていたこと、国民健康保険料も滞納していたことなどを取り上げ、悪意の不法行為と認定しています。

最高裁もこれを指示した形です。


最近では、カード会社が個別にこのような請求をしてくる例は多くないとは思いますが、虚偽の申請をしてしまったようなケースでは、自己破産の申立時に配慮しておく方が良いでしょう。

 

地方裁判所、高等裁判所とも同じ結論を採用しています。

どのような事実関係で、このような判断がされたのか不安な人はチェックしておきましょう。

 


事案の概要

原告がクレジット会社、被告が債務者。カード会社が詐欺による不法行為の損害賠償請求をした事案です。

まず、原告は、クレジットカード利用代金(立替金)について、裁判を起こし判決を取得。

その後、原告は、被告には支払能力がなかったにもかかわらず、カードの発行を受け、商品を購入して代金を立替払いさせたとして、不法行為(詐欺)に当たると主張して、立替払いした商品代金相当額、手数料相当額、遅延損害金を損害賠償請求したものです。

被告は、破産宣告後免責確定までの間に原告がした判決による債権回収、及びこの訴えが不法行為及び不当利得に当たるとして、慰謝料及び弁護士費用等を反訴請求。

 

カードの利用状況

被告は昭和27年生。平成5年11月19日、原告の発行するクレジットカードの利用契約を締結。

被告は、同日から同6年4月4日までの間、クレジットカードを使用し、加盟店である株式会社伊勢丹から商品を購入。原告は、商品の代金を立替払い。

被告は、同6年6月7日、自己破産の申立て。同年11月7日、破産宣告及び破産手続を廃止する旨の決定。


原告は、同6年12月22日、被告に対する立替金債権について判決を得て、同判決により、同7年3月22日から免責決定までの間、被告の給料債権を差し押さえ、17万8241円の弁済を受けました。

被告は、同年7月4日、免責の決定を受けました。

 

 

破産者の生活状況、他社の債務状況

被告は、昭和63年頃まで、月額20万円の母親の援助とイラストレータとしての臨時的な収入により生計を維持。

母親の援助がなくなるのに伴って、家賃月額約3万円のアパートに移り、イラストレータとしての収入と銀行等からの借入れにより生計を維持。

平成5年11月当時、債務額は11社から計約290万円、毎月の返済額は約12万円に。

 

被告は、同年10月頃、安田生命に勤務する友人から、当初は月額15万円、保険契約を獲得するようになれば月額30万円以上の収人が得られるとの説明を受けて勧誘され、同社に保険契約の勧誘員として、勤務し始めました。

 

本件カード申し込みは、同年11月19日。伊勢丹相模大野店において、利用申込みをし、申込書中に富士銀行に債務50万円を負っているとの申告をしたものの、他の債務については申告することなく、クレジットカードの発行を受けました。

被告は、平成2年ころ、日本信販に対する債務について公正証書を作成し、クレジットカードを返納

同5年11月当時、同社のクレジットカードを利用することができず、また、同月24日、エムワンカードを利用して約25万円の融資を得ようとしたが、従前の支払が円滑を欠いていたため、断られたという状況でした。

 

被告は、安田生命に勤務するも、約半年勤務した後、退社。

平成5年11月当時、11社に計約290万円の債務を負い、毎月の支払額も約12万円に達し、生計の維持は容易ではない状態にあったと推認しうるとしています。

 

本件カードの利用内容

被告は、このような事情の下で、原告からクレジットカードの発行を受け、これを利用し、自己のためのみならず、友人への贈答用に、いわゆるブランド物の水着(被告にとって生活必需品とは到底いうことができない。)までの商品の購入等をしていました。


被告の商品等の購入は、立替払金債務の弁済が遅滞に至ることの明白な状態の下にされたと見る外なく、被告も、右支払が滞ることを十分に認識していたと推認することができ、右商品等の購入は不法行為を構成し、これにより、原告は、立替払いした商品等の代金相当額の損害を被ったと認められると結論づけています。

 

カードの使途まで理由とされているところから、虚偽記載だけが問題だった事案ではないとは思います。

ただ、クレジットカード申込時などには、正確な情報も伝えていない人も多いでしょう。

現在、このように争ってくるクレジット会社はほとんど見かけませんが、理論上、このような主張が認められるリスクはありますので、申込時にも虚偽記載は控えるようにしましょう。

 

 

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