裁判例
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預託金の消費・横領と非免責債権
千葉地方裁判所平成27年4月9日判決です。
預託金を補填する見込みもないまま使ってしまったことに関する債務について、横領だとして積極的な害意があることから非免責債権と判断したものです。
破産法253条は、破産による免責が許可されたとしても、支払義務が残る債権を列挙しています。
そのうちの一つが、
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
です。
この「悪意」とは何かが争われるケースもあるのですが、本件は、これを認めたという事例です。
事案としては、同僚が自分でお金を持っていると使ってしまいそうだとして、500万円を預けてきた。その後、返還を求められたが、一切返済できないまま数年経過後に100万円を返済、自己破産の申立をした、というケースです。
裁判所は、横領と認定しました。
「破産法二五三条一項二号の不法行為が要件とする「悪意」は、単なる故意ではなく、他人を害する積極的な意欲すなわち害意が必要であると解すべきところ、前提事実、認定事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告からの預託金五〇〇万円を被告が従前から使用していた被告名義の銀行口座に入金して保管を開始し、その後も口座の金員の利用を継続したこと、その後である平成一四年頃、被告は同預金口座残高が五〇〇万円を下回っていることに気付き、原告からの預託金を使ってしまっていることに気付いたが、それ以降も格別の収入のあてがないにもかかわらず自己の必要に応じて、同口座の金員を利用し続けたこと、原告から再三にわたって預託金返還を求められた際、必ずしも口座の金員がゼロではなかったにもかかわらず、平成二六年七月三〇日に一〇〇万円を返済するまでの間全く返還に応じず、連絡もしないまま転居をし、破産の申立てをしたことが認められる。
すなわち、被告は、原告から請求を受けるまでの間にこれを補填する具体的な見込みもないまま、原告からの預託金をそれと認識して費消し、返済を平成二六年七月三〇日までの間全く行っていないのであって、被告が同日行った一〇〇万円の返済も、売却しようとした自宅不動産について債権者を原告とする仮差押登記を受けたため、その登記の抹消を求めて行われたものであることが認められる。
そうすると、被告は遅くも原告から請求を受けて返還をしなかった平成一八年一〇月三一日の時点で原告からの預託金を横領したものであって、同不法行為には原告に対する積極的な害意があったものである。」
このようなケースで、刑事事件の横領罪として処分されるかというと、微妙な問題があります。
警察は動きにくいことが多いのですが、今回のように裁判所が考えると、横領行為をしてしまったものの返還義務については非免責債権とされてしまうので、自己破産・免責が認められても、支払義務が残ることになってしまいます。