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不貞慰謝料と非免責債権

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裁判例

 

不貞慰謝料を非免責債権にならないとした裁判例

東京地方裁判所平成28年3月11日判決です。

不貞慰謝料が、破産法上の非免責債権ではない(=免責され、支払義務はなくなる)と判断したものです。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.4.14


破産法253条は、破産による免責が許可されたとしても、支払義務が残る債権を列挙しています。

これを非免責債権と呼びます。

そのうちの一つが、

破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

です。


この「悪意」とは何かが争われるケースもあるのですが、本件は、否定した事例です。

事案としては、配偶者のいる夫と不貞関係にあった女性が、妻から不貞慰謝料請求をされた、その後、その損害賠償義務も債権者一覧表に載せて自己破産をしたという内容です。

裁判所は、以下のように判断し、悪意はなかったと認定しました。

 

事案の概要

原告が、被告に対し、被告と原告の夫との不貞行為により婚姻共同生活の平和を侵害され夫婦関係が破綻する危機に瀕したとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき550万円の賠償金(慰謝料500万円及び相当弁護士費用50万円)の支払いを求めたものでした。

夫がA。

原告は、平成21年8月8日、Aと結婚し、両者の間には3人の子がいました。

被告とAは、かねてからバスケットボールを共通の趣味とする知人であり、フェイスブックでメッセージを交換する程度の関係であったが、平成25年4月24日に携帯電話の連絡先を交換したころから、急速に親密な関係に。


被告は、平成25年12月12日、Aに配偶者がいることを知りながら同人とともに箱根町湯本のホテルに宿泊し、肉体関係を持ち不貞関係を有するに至りました。


被告とAとの不貞関係はその後も継続

被告は、当時の夫からAとの不貞関係を止めるように注意されたため、平成26年5月30日、Aに対し、2人の関係を清算する旨連絡したもののその3日後にはAに連絡をとり、2人の不貞関係は復活。

 

被告は、平成27年7月7日、破産手続開始決定を受け、同年9月16日、免責許可決定を受けました。

 

被告は自己破産、免責の主張

被告は、Aとの不貞関係が発覚、終了した後、破産手続開始決定を受け、免責許可決定を受けたと主張。

被告は、破産手続において、原告の慰謝料請求権も破産債権として挙げていたから、免責許可決定によってその免責を受けていると主張しました。

破産法253条1項2号は「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定するが、その趣旨及び目的に照らすと、そこでいう「悪意」とは故意を超えた積極的な害意をいうものと解されるとし、原告に対する積極的な害意があったということはできないから、原告の慰謝料請求権は免責されたと主張したものです。

 

裁判所も免責と判断

まず、被告とAとの不貞行為は、原告に対する関係において共同不法行為として、それにより原告が被った損害を賠償する責を負うべきこととなると不貞慰謝料を認定。

本件に顕れた一切の事情に鑑みると、原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、多くとも本件提起前に原告被告間でおおむね合意に達した210万円を超えることはないと認めるのが相当としました。

もっとも、被告は、その後、その資力から上記和解金を捻出することができず7万円を支払ったのみで、破産手続開始決定と同時に破産手続廃止の決定を受け、平成27年9月16日には原告の慰謝料請求権をも破産債権として掲げた上で免責許可決定を受けたと認定。

そこで検討するに、破産法253条1項2号は「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定するところ、同項3号が「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」と規定していることや破産法が非免責債権を設けた趣旨及び目的に照らすと、そこでいう「悪意」とは故意を超えた積極的な害意をいうものと解するのが相当であるとしています。

 

本件に顕れた一切の事情に鑑みると、被告の不法行為はその違法性の程度が低いとは到底いえないと指摘。

しかしながら他方で、本件に顕れた一切事情から窺われる共同不法行為者であるAの行為をも考慮すると、被告が一方的にAを篭絡して原告の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできず、原告に対する積極的な害意があったということはできないとしました。

原告の被告に対する慰謝料請求権は破産法253条1項2号所定の非免責債権には該当しないといわざるを得ないと結論づけています。

請求は棄却という結論。

 

不貞行為の態様と自己破産

被告の不貞行為は決して受け身なものとはいえませんでした。

しかし、被告は一度示談をしようとし、しかし、示談金を捻出することができずに自己破産をしたといえます。

このような経緯もあり、積極的な害意があったということはできないと判断したものといえるでしょう。

 

積極的に相手を奪いに行ったようなケースでは、この裁判例を前提にしても、違う判断がされる可能性は高いですが、多くの不貞慰謝料は自己破産により免責されるといえます。

この場合、自己破産の申立時にしっかりと債権者一覧表に記載する必要はありますので、ご注意ください。

 

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