事業譲渡について詐害行為否認とされた裁判例の解説。神奈川県厚木市・横浜市の弁護士法人

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詐害行為否認の裁判例

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FAQ(よくある質問)

 

Q.賃借人の自己破産の場合の賃貸借契約は?

破産手続きで破産管財人から否認されるという問題があります。これが認められると、破産管財人に対して何らかの支払等が必要になってきます。

否認の中でも破産者が財産減少をさせたという詐害行為否認があります。これが認められ、破産管財人に対して支払をしなければならなくなった裁判例を紹介します。どのような場合に、この否認が認められるのかチェックしておきましょう。

東京地方裁判所 令和3年6月25日判決です。

破産会社の事業譲渡が問題になったケースです。

 

今回の内容

  • 私的整理で事業譲渡を検討している
  • 破産管財人から否認の通知書が届いた

 

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.5.9

 

事業譲渡と破産管財人の否認


本件は、破産会社の破産管財人である原告が、被告に対し、詐害行為否認をして返還請求した事件です。

主な争点として、破産会社から被告に対する事業譲渡が平成29年改正前の破産法160条1項2号本文の「破産債権者を害する行為」に当たるかどうかが問題となりました。

 

否認権の行使により、破産法168条4項に基づき、その事業の価額から破産会社が受けた反対給付の価額を控除した1537万8687円の償還を求めたものでした。

被告は、破産会社から譲渡を受けたのは事業ではなく個別の資産であって、被告による反対給付はその対価として相当であるから、その譲渡は詐害行為に当たらないと主張。

しかし、裁判所は、この主張を否定し、破産管財人による否認権行使を認めています。

 

破産に至る経緯

破産会社は、平成28年3月以降、野菜等生鮮食料品の商社であるB株式会社が取り扱う生鮮食料品等を配送する事業被告から受託しており、平成30年2月頃には、本件事業のみをその業務としていました。

破産会社は、平成30年8月7日、債権者である金融機関に対して債務の支払を停止する旨を連絡し、遅くとも同日に支払を停止。

破産会社は、平成30年8月21日、被告との間で、所有する全トラック26台を代金1699万0110円で売却する旨の契約を締結し、同年9月10日、被告から同額の支払を受けました。

破産会社は、平成30年8月31日、本件事業を終了。

被告に対し、本件車両のほか、本件事業のために使用していたプレハブ建物、駐車場、パソコン、ドライブレコーダーのシステム、コピー機及びファックスなどを引き渡し、従業員との間の雇用関係を終了。

被告は、破産会社の元従業員を雇用。平成30年9月1日以降、本件事業を継続。

平成31年1月7日、破産手続開始決定。

詐害行為否認事例

 

 

車両売却に至る経緯

もう少し詳しく車両売却に至る経緯を確認していきます。

経営状態の悪化した破産会社は、被告に対し、平成30年2月9日付けで、事業全部を8000万円で譲渡する旨を申し出ました。これに対し、被告は、同年3月下旬頃、支払える上限は3200万円である旨を回答

破産会社は、平成30年5月頃、信用金庫等の金融債権者に対し、事業全部を被告に譲渡することによる私的な債務整理について理解を求めていました。また、破産会社代表者及び被告代表者は、同年6月7日から、破産会社の従業員との間で被告への雇用に関し個別の面談を実施していました。

破産会社は、平成30年6月20日付けで、金融債権者に対し、私的整理に関する説明資料を交付。

この資料では、破産会社及び破産会社代表者の資産を処分して繰り上げ一部弁済をする、残債務は免除または一部免除の上で破産会社代表者個人の債務とする、破産会社の保有する車両、事務所、その他物置及び在中動産一式を3200万円で売却するなどとされていました。

破産会社は、平成30年6月20日付けで、各従業員に対し、解雇予告通知。もっとも、同通知によれば同年7月20日付けで解雇となるところ、その後も各従業員は破産会社において本件業務に従事していました。

破産会社は、平成30年7月5日、被告の会議室において、被告も交えて、金融債権者に対し、私的整理による各債権者に対する配当計画案を提示。

その内容は、担保から債権額を満額回収できない金融債権者に対し、会社資産等売却額3200万円を含む総額5972万2500円から破産会社代理人の報酬等を控除した残額を按分弁済するというものでした。

 

資産等譲渡契約書等のやりとり

被告は、平成30年7月23日、破産会社に対し、資産等譲渡契約書の案文を送付

そこには、破産会社は、本件車両、本件建物その他物置、本件建物内事務用机その他動産類一式の所有権、及び、本件建物の敷地等の賃貸借契約、電話回線契約、コピー機リース契約、バックカメラリース契約、ドライブレコーダーリース契約等の契約上の地位を被告に譲渡、被告が破産会社の取引先との取引関係を承継できるように取引先の承諾を得ること、破産会社は、譲渡日をもって従業員との雇用関係を終了し、被告は、そのうち希望者との間で、同月21日を始期とする雇用契約を新たに締結すること等が記載されていました。


破産会社は、平成30年7月26日、公認会計士に対し、予定する資産等譲渡の譲渡価格に係る経営意思決定の参考とするため、同年8月1日を基準日とする適正な事業価値の評価を依頼。同月7日付けで、その事業価値を3190万円とする報告書が作成。

破産会社は、平成30年7月30日、金融債権者に対し、債権者の意向を踏まえた私的整理案を提示。同案における会社資産等売却額は、同様に3200万円と設定されていました。

私的整理

弁護士同士のやりとりと懸念

弁護士間では、平成30年8月3日、譲渡契約書の対案を電子メールに添付して送付、返信当がありました。

さらに、金融機関からは期限の利益喪失通知を週内に破産会社等へ送る旨の連絡を受け、支払停止通知を送るよう求められている旨の電子メールを送信。

弁護士からは、同月8日、債権者の納得が得られないのであれば譲渡はリスクありとせざるを得ず、破産申立てをして保全管理人を選任してもらい、事業継続しながら開始決定前の資産譲渡を保全管理人の下で行う方が、破産裁判所の許可が得られるので被告を説得しやすい旨の返信。

 

破産会社と被告は、平成30年8月17日に面談し、破産会社は同月31日に本件事業を終了すること、被告は破産会社の従業員のうち希望者との間で同年9月1日からの雇用契約を締結すること、本件車両の譲渡代金は後日決定すること、ライフライン契約、リース契約、賃貸借契約は被告が引き継ぐことなどを確認しました。

 

裁判所は事業譲渡を認定

被告は、破産会社から譲り受けたのは本件車両という個別資産だけであり、それ以外に破産会社から引き継いだ本件建物や什器備品等は無価値であって、破産会社から本件事業を譲り受けたものではないなどと主張。

しかし、上記の経緯に照らせば、被告は、破産会社から本件事業全部の譲渡の申し出を受け、Bの商品配送を停滞させて同社に債務不履行が生ずることを防ぐため、破産会社から資産等の譲渡を受けて本件事業を被告において継続することとして、本件契約書案を作成し、これによる譲渡の対価3200万円等を原資として破産会社の私的整理を行って本件事業に係る負債を整理しようとしたものと認定。

被告が破産会社に提示した本件契約書案は、Bのために本件事業を継続することを目的とするものであり、これによる譲渡の対象も破産会社が本件事業のために使用していた資産や契約関係等をほぼ網羅するものであって、取引関係の承継に係る条項が置かれていることからしても、本件事業の譲渡を内容とするものであったと認めるべきであるとしました。

このことは、3200万円という対価の金額が、個別資産の評価額を積算したものではなく(本件契約書案は、本件車両を1756万円と評価するのみで、その余の資産については評価額を記載せず、対価について3200万円と明記している。)、被告が本件事業を破産会社から引き継いで継続させるための対価として定められたと認められることからも明らかであるとしました。

 

その後、私的整理について破産会社の債権者の承諾が得られなかったため、被告は、本件契約書案において譲渡対象とされていた資産等のうち本件車両のみを1699万円余で購入する旨の契約を締結した上、平成30年8月31日まで破産会社が本件事業のために使用していた本件車両、本件建物のほか、本件事業に係る日報や配送ルートなどのデータが記録されたコンピュータを含む本件建物内の動産一式、本件建物の敷地等の賃貸借契約、電話回線契約、コピー機、バックカメラ及びドライブレコーダーのリース契約等の契約上の地位並びに破産会社の従業員を同年9月1日から引き継ぎ、これらを使用して本件事業を継続していると認定しました。

以上の経緯に照らせば、被告は、本件契約書案において譲り受ける予定であった破産会社が本件事業のために使用していた資産等のほぼ全てを破産会社から引き継ぎ、破産会社が平成30年8月31日まで行っていた本件事業をそのままの形で同年9月1日から引き継いだものというべきであって、破産会社から本件事業の譲渡を受けたと認めるべきであるとしています。

 

事業譲渡を詐害行為と認定

被告は、破産会社から本件事業を引き継ぐ対価として、破産会社に対し3200万円を支払う旨の提案をしたものであるとしています。

また、公認会計士作成の報告書の評価に照らしても、本件事業には3200万円程度の価値があったと認めるべきであるとしています。

そして、被告は、破産会社から本件事業の譲渡を受けたと認められるにもかかわらず、破産会社に支払ったのは1699万0110円のみであるから、破産会社の被告に対する本件事業の譲渡は、破産会社の財産を減少させる行為として詐害行為に当たると認定しました。

これに対し、被告は、本件契約書案に記載された3200万円という価格は未確定で、本件契約書案は、破産会社の私的整理案における繰り上げ弁済の原資を確保するために作成されたものであり、当該私的整理案に金融債権者全員が承諾することを前提としていたところ、これに応諾しない旨の金融機関の回答により私的整理は不可能となり、当該私的整理案の繰り上げ弁済の原資を確保する目的であった本件契約書案も無効となったのであって、これに破産会社及び被告は拘束されないと主張。

しかし、本件契約書案が私的整理案の実現を念頭に作成されたものであるとしても、被告は本件契約書案の作成に当たり本件事業の継続に支障を生ずることなくこれを破産会社から引き継ぐことの対価として3200万円の支払が相当と判断したものというべきであり、実際に本件事業の継続に支障を生ずることなく被告が本件事業を破産会社から引き継いでいると認められることからすれば、その対価を3200万円と認めるのが相当というべきであって、破産会社が金融債権者らに提案した私的整理案が結果的に実現しなかったことは、上記認定を左右しないとしました。

 

否認権による返還義務の範囲

否認権行使の結果、破産法168条4項により償還すべき価額の算定基準時は、否認権が行使された日である訴状等の被告への送達日としています。

本件事業については、被告に譲渡された平成30年8月頃の時点で3200万円程度の価値があったと認められるところ、被告は本件事業を破産会社から引き継いで現在まで継続しているというのであり、本件事業の価値が大きく棄損されたという事情もうかがわれないから、本件訴状が被告に送達された令和元年7月10日の時点においても、上記と同程度の価値があったと認めるのが相当としました。


これに対し、被告は、本件事業は事業としては無価値であるから清算価値で評価すべきであると主張し、その旨の評価をした公認会計士作成の事業評価書を提出。

しかし、評価は平成29年9月期までの破産会社の業績に基づいて本件事業を無価値と評価するものであるところ、、被告はBに債務不履行を生じさせずに本件事業を継続するという利益を考慮して本件事業を破産会社から3200万円で引き継ぐために本件契約書案を作成したと認められるにもかかわらず、上記評価は上記利益を適切に考慮したものとは認められないから、上記主張は採用できないとしました。

また、被告は、本件事業を譲り受けた後の方が業績が悪く、営業赤字になっているとも主張。この点も上記利益を踏まえたものとはいえないから、上記認定を左右するものとはいえないとしました。

 

本件において否認権の行使により償還されるべき価額は、本件事業の価値である3200万円から反対給付として破産会社に支払われた1699万0110円を控除した1500万9890円と認定しました。

 

詐害行為否認と受益者の認識

支払停止があった後にした詐害行為については、受益者が、その行為の当時、支払停止があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、否認することができないとされていました(本件改正前の破産法160条1項2号ただし書)。

被告は、本件事業の譲渡の当時、支払停止があったことを知らなかったと主張。

しかし、被告は、破産会社に1699万0110円を支払って本件事業の譲渡を受けたと認められ、本件契約書案を作成した被告が本件事業に3200万円程度の価値があったことを知らなかったとはいえないとしました。

被告は、本件事業の譲渡の当時、本件事業の譲渡が破産債権者を害することを知らなかったとは認められないから、仮に支払停止があったことを被告が知らなかったとしても、原告による否認権の行使は妨げられないとしました。

 

破産管財人による詐害行為否認まとめ

本件では、事前に事業譲渡に関わっていた相手が被告になっており、財産評価に関する資料もあり、相手の認識についても立証がしやすかったといえます。

事業譲渡による私的整理の手法は、これが認められなかった場合に、否認権行使の対象になることも多いので、リスク判断はしっかりするようにしましょう。

全体的な流れを見ると、車両購入に至った被告としても、破産管財人による否認リスクを受け入れて事業を続けたようにみえますね。

 

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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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