クレジットカードでの飲食費が非免責債権とされた裁判例

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クレジットカードでの飲食費が非免責債権

東京地方裁判所平成9年10月13日判決の紹介です。

クレジットカードの飲食費が非免責債権とされ、自己破産をして免責後も支払い義務が残ってしまった事例です。

最近は、ここまでこだわるクレジット会社はほとんどありませんが、理論上は、カード利用時の債務状況、延滞状況、収入などによって、カード債権でも非免責債権とされるリスクがあるということがわかります。

多重債務状態でのカード利用ではこのことを忘れないようにしましょう。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.4.14

 

事案の概要

原告がクレジットカード会社

被告が破産者です。

原告は、被告が既に支払不能の状態にあり、カードによる立替払金の求償債務を履行する意思及び能力がないにもかかわらず、加盟店においてカードを利用して飲食したことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求権により、立替払金相当金の損害賠償を請求しました。

被告は、原告からクレジットカードである伊勢丹力ードを貸与されていました。

契約としては、平成2年、立替払契約を含む伊勢丹カード契約を締結。

 

カードの使用状況と自己破産での免責許可

被告は、平成七年五月三日から同年六月一七日にかけて、原告加盟店において、伊勢丹カードを利用して飲食。

原告は、この代金を立替払をしたものの、被告はカード利用代金の支払をせず、原告は立替払金相当金九万三〇七九円の損害を被ったと主張。

被告は、平成八年一月一八日に自己破産の申立をしました。

自己破産では、被告は債権者約八名に対し、合計約六六八万円の債務を負担し、これが支払不能の財産状態にあり、かつ、破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りない」として同年六月六日午後五時に「被告を破産者とする。本件破産手続はこれを廃止する」旨の同時廃止決定が出ています。

被告は、同日、免責の申立を行い、同年一〇月二一日に免責決定を受けました。

 

これに対し、原告は、同年一〇月二九日、右免責決定を不服として即時抗告を申し立て。しかし、即時抗告は棄却。

さらに、即時抗告の棄却決定に対する特別抗告を申し立てましたが、却下されています。

 

 

原告は、非免責債権だと主張

原告は、自身の債権について、悪意の不法行為だとして、非免責債権を主張しました。

被告は、伊勢丹力ード利用時において、立替払金全額の支払意思及び支払能力がないにもかかわらず、原告加盟店において、これを故意に秘匿し、各加盟店の担当係をして、立替払金の支払意思及び能力があるものと誤信させ、伊勢丹力ードを利用して飲食を行ったとの主張です。

これにより、九万三〇七九円相当の損害を被ったを請求したわけです。

この損害賠償支払債務は、破産法三六六条ノ一二但書二号(旧破産法です)に規定する「破産者が悪意を持って加えたる不法行為に基づく損害賠償」債務に該当するから免責の効力は及ばないとの論理です。

 

これに対して、被告は、伊勢丹カード利用時には原告に対する支払が可能であると判断していたと反論しました。

 

借金の経緯

非免責債権に当たるかの判断に際し、裁判所は、借金の経緯を認定していきます。

被告は、平成五年当時、年金生活者の母親、無職の実弟及び就学中の長女(昭和五三年五月九日生)と共同生活。

被告は、家計を一人で支える立場にはあったが、年齢等の関係で高収入の職に就くことはできなかったため、経済的に苦しい状況にあったと認定。

その頃、被告は、情交関係にあった乙川から、「金融・不動産仲介、墓地の区画販売等を行う会社を設立する予定であるが、資金援助をしてほしい。高額の役員報酬を出すので共同経営者として参加してほしい」等と誘われました。

共同経営者として負担金を支払うよう要求されたことから、同五年秋頃、日本信販株式会社等から九〇万円を借り入れて内金八〇万円を負担金として支払っています。

その際、乙川は、オーエスの売上で右借入金を直ぐにでも返済ができる旨を言明したが、オーエスは自己資金が殆どなかったのみならず、主たる業務である金融の仲介も成約件数が少なかったため、最初から経営は苦境に立たされたという状況。

この状況の中で、被告は、オーエスから月額二〇万円の報酬の支払を受けていたものの、同六年六月頃からは報酬の支払は殆どない状態。逆に、乙川の依頼で再三資金援助を要請され、金融機関から借り入れてその殆どを出資ないし融資する有様に。

 

被告の返済状況

被告は、同七年一月の入金を最後に不払状態となり、同七年四月七日には日本信販により、支払不良を理由としてクレジットカードを回収されました。

その後、被告は、日本信販に対し、同年五月九日、「共同経営している会社の経営不振により支払が困難である」旨を伝えたところ、日本信販は、同七年五月一一日には、東京簡易裁判所に支払命令申立手続を行い、その頃、同命令が被告に送達されている状況。


菱信ディーシーカード株式会社の借り入れについて、その支払も滞り、同六年七月から同七年九月までに一三万円(同七年度は一月、四月、八月、九月に各一万円を入金)を返済したのみでした。この間、同六年七月二八日にカードを回収されています。

株式会社ジャックスについて、同七年三月二七日頃、同社に対する返済を怠り、期限の利益を喪失。


被告は、同七年春頃、株式会社武富士に対し、融資の申込をしたが、拒否されています。ここに至り、被告は、信販会社からの新たな借入金の調達さえも困難な状況に陥ったと認定。

 

本件カード利用時期

被告は、平成六年春頃、原告と伊勢丹力ード契約を締結。

同七年五月三日から同年六月一七日にかけて、原告加盟店において、伊勢丹力ードを使用して飲食。

なお、被告は「オーエスの客の接待としての利用が一、二件あった。その際、被告は、乙川から、伊勢丹カードの利用代金は、会社の経費扱いになるので、一時被告が立て替え、その後会社から清算する旨の説明を受けていた」旨供述していましたが、接待の相手、時期、取引内容等が曖昧であり、これを裏付ける的確な資料もないから直ちに信用できないとしています。

時期としては、他社からカードを回収されたり、裁判所を使った手続きをされている時期です。

 

カード利用時の生活状況

伊勢丹カード利用時の被告の経済状況等としては、家族四人で共同生活をしていたが、経済的には苦しく、同五年以前から社会保険料(国民健康保険料や国民年金の払込資金)さえも支払えない程であったと認定。

また、当時、オーエスないし乙川から報酬の支払を殆ど受けておらず、報酬月額二〇万円の一年分に相当する二四〇万円が既に未払状態にあったと認定。

被告は、当時、唯一の収入源である児童扶養手当等(合計三万円)と預貯金の取り崩しで生活をやり繰りしていたが、同七年五月ころまでに預貯金の殆どを使い果たしたとも認定。

また、電話料金の滞納が続いたため、NTTから同七年七月限りで「お客様都合使用中止」処分を受けた(数か月程度の電話料金の不払程度では通話停止措置がとられることは通常ないから、被告は少なくとも数か月前から、電話料金を滞納していたものと推認される)と認定。


本件飲食当時、少なくとも元金部分だけでも約二五〇万円の債務を負っており、本来、毎月の分割返済額は五、六万円であったが、報酬の支払が殆どないため、平成六年六月頃から、既に返済が困難な状況にあったとしています。

 

債務整理の受任通知

被告は、別会社に入社後、原告の担当者と協議し、伊勢丹カードの利用代金九万三〇七九円を同七年九月から月二万円ずつ返済する旨を約束したが、二回支払ったのみでした。

被告訴訟代理人弁護士は、同七年一〇月二五日、被告から債務整理を受任し、同日付で原告を含む各債権者に受任通知を発送。

しかし、その後も、原告から、被告の自宅や会社に直接電話があったり、同七年一一月九日には、原告の社員が被告の自宅に直接取立に赴き、訪問票を置いて帰ったこともありました。

同八年一月一八日、自己破産の申立という流れです。

 

裁判所は非免責債権と認定

被告は、伊勢丹カードを使用して飲食をした当時、既に自己資金による返済は不可能であり、かつ、オーエスないし乙川も本件飲食代金を清算してくれるとは考えていなかったというべきと認定。

そして、被告は、本件飲食代金の支払意思も能力もないのに、原告加盟店において、伊勢丹カードを使用して飲食したものと認めるのが相当であるとしました。

被告は、勤務先の経営状況も把握していたから、立替金が経費として返済されるとの発言について、被告が乙川の言動を信じたり、後日清算してもらえると信じていたとは到底認め難いと一蹴。

被告が右飲食時に所持していた金員は生活費に充てるべき娘の児童扶養手当等や前記借入金の一部であったのであるから、飲食の際に支出することが予定されていなかったものといわざるを得ず、飲食時において財布中に現金があったとしても、直ちに被告の前記認定の認識を左右するものではないとしました。

以上からすると、被告は、伊勢丹カード利用時において、被告自身及びオーエスの経済状況が破綻しており、その代金支払が被告自身においてもオーエスにおいても不可能だったこと及びその結果原告に損害を与えることを十分認識していたものと認められるから、被告の伊勢丹力ード利用は、破産法三六六条ノ一二但書二号の所定の悪意による不法行為に該当するというべきとしました。

 

判断要素

生活歴、他社の借金と返済状況、カードの利用状況、収入などの経済状況等について認定されています。

勤務していた会社の経済状態が破綻していることも理由とされています。

これらが判断要素とされているものです。

しかも、クレジット利用自体が不法行為と認定されているという事情があります。

金額も高額ではない事案です。

最近では、このような争われ方はほとんどありませんが、理論上は、このような請求を受けることがあることは意識しましょう。

 

 

自己破産の申立では、経緯の説明等もしっかりしておくべきといえます。

 

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