給料差押えと自己破産事例。神奈川県厚木市・横浜市の弁護士。

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ケース紹介200 Yさんの事例

50代 /男性 / 会社員

借入の理由:住宅ローン等、給料差押え


厚木市にお住まいの50代男性のケースです。

住宅ローンの滞納等により給料を複数業者から差押えられているとの相談でした。

今回は給料差押えと自己破産手続きの関係、差押えが複数されている場合の手続きについて解説します。

破産管財人は選任されず、同時廃止による解決の場合の流れです。

この記事は、

  • 給料の差押えがされたので自己破産希望
  • 差押え競合による供託金を回収したい

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2022.5.25

 

給料を差押えられたので自己破産

借金が払えず、裁判を起こされ、判決を取られると、給料の差し押さえ等がされてしまうことがあります。

給料を差し押さえられると、手取り収入が減ります。

給料の差し押さえまでされている場合、弁護士に自己破産を依頼しても、差し押さえはすぐに止まりません

 

 

自己破産手続の種類と給料差し押さえ

自己破産の手続では、同時廃止と管財手続があります。

破産管財人が選ばれる管財手続の場合には、破産管財人が動き、給料の差し押さえを取り消します

Q.差押え、強制執行、保全処分と破産決定の関係は?

 

しかし、管財手続は、費用が高いです。一定の財産があるなど他の事情があり、管財手続になるのであればともかく、給料の差し押さえをされていることだけを理由に管財手続にする必要性は低いです。

同時廃止手続の場合、自己破産の申立、決定が出ても、給料の差し押さえはすぐには取り消されません。

ただ、破産の決定後は、これを停止することができます。

 

破産決定と強制執行停止

同時廃止で進められることになった場合、破産手続き開始決定と同時に廃止決定が出されます。

1枚の紙で決定書が届きます。

これを、差し押さえをしている裁判所の係に提出し、給料の差し押さえを停止してもらいます。

同じ裁判所でも、破産係の部署と、給料差押えを担当している債権執行係の部署は違いますので、差押えの係に情報を共有する必要があります。

差押えの書類を見て部署を確認し、そちらに破産決定等を出します。

債権執行係などと呼ばれる部署です。

 

執行停止の上申書提出

裁判所によって若干運用が違いますので、注意してください。

神奈川県厚木市を管轄している横浜地方裁判所小田原支部では、執行停止の上申書に当事者目録は不要とされています。


上申書に頭書に事件番号と債権者・債務者・第三債務者の商号を記載して提出します。

その際、訴訟委任状をつければ、債務者の送達先は代理人である弁護士事務所の住所とされます。

債権者と第三債務者宛の送達を速達にしてほしい旨は別途上申書を用意します。

給料日が迫っているような場合には、速達で出した方が良いでしょう。持っていかれてしまう金額が減る可能性が出てきます。

【提出するもの】
・執行停止の上申書
・速達の上申書
・同時廃止の決定正本
・委任状
・債権者の資格証明書
・添付郵券

なお、時期にもよりますが、郵便切手としては、

522円程度×債権者+第三債務者
速達ならその料金×債権者+第三債務者
代理人への普通郵便分でした。

2022年では、若干、変わっているはずですので、裁判所に確認してください。

 

送達を速達にしてもらうための上申書

本文には、次のような記載をして、速達で発送してもらっています。

頭書事件に関し、債権者及び第三債務者に対する強制執行手続の停止の通知は、書留郵便の速達でされるようお願い申し上げます。

強制執行停止に関する記載部分は次のとおりです。

御庁標記事件に関し、令和○年月日、債務者は御庁に対して破産手続開始の申立てをなし(令和3年(フ)第○号)、同年○月○日午後1時、御庁より破産法第216条第1項の規定に基づき、破産手続廃止の決定を受けました。
標記事件は、上記破産手続における破産債権に基づく強制執行手続であるので、上記破産手続において債務者に対する免責許可についての裁判が確定するまでの間、標記事件を停止されたく上申致します。 

添付書類として
1.破産手続開始及び廃止決定書正本
2.資格証明書(債権者)
3.委任状 

を提出しています。

 

破産手続き開始決定前の強制執行中止

破産手続開始決定が出れば、強制執行停止ができます。

しかし、自己破産では、申立をしても、審査があり、その後に破産手続き開始決定が出るという流れです。

 

裁判所によっては、この審査では、面接が必要な場合もあります。

時間がかかります。

そこまで待てない場合には、さらに強制執行中止の申立を検討する必要があります。

停止よりも前の段階の話です。中止決定をもらうこともあるのですが、中止申立をすると、裁判所では、中止決定を出すよりも、早く破産手続開始決定を出すようにする、という対応も多いです。

もちろん自己破産申立内容が十分であり、補正や追加書類の指示がないようにしておく必要はあります。

 

強制執行中止命令の申立書

中止命令の申立書は次のようなものです。

相手方が、申立人に対して行った、別紙差押債権目録記載の債権についてした横浜地方裁判所令和○年(ル)第○号債権差押命令申立事件による債権執行手続きは、御庁令和○年(フ)第○号破産手続開始申立事件の申立てにつき決定があるまでの間、中止する。
との決定を求める。

申立ての理由

1 申立人は、令和4年○日、御庁に対して破産手続開始の申立てをなし、現在、御庁において審理中である。
2 相手方は、申立人に破産手続開始の申立てに先立ち、御庁に対し、申立人の有する別紙債権目録記載の債権(以下「本件債権」という)について差押命令を申立て(令和○年(ル)第○号事件)、御庁により令和○年○日、債権差押命令が発令され、申立人に送達された。
3 債権差押命令が申立人に送達されて以降、本件債権についての第三債務者が申立人への給与債権を差し押さえている状態にある。
かかる事態は、申立人の生活資金の一部を奪うのみならず、破産債権者間の平等を害し、財産の適正かつ公平な清算に著しい支障を来す。
4 一方、相手方は信用力のある優良企業であるから、本件債権の回収ができない事によって倒産するなどの事態はあり得ない。
また、本破産手続開始の申立については、開始決定に支障となる事情はなく、破産手続開始決定が発令されることは確実であると考えられる。
したがって、債権差押手続の中止命令によって相手方に不当な損害を及ぼすおそれもない。
5 よって、申立人は、破産法第24条第1項に基づき、債権差押手続の中止命令の発令を求めて、本申立てに及んだものである。

 

 

債権差押手続取消の上申書提出

債権者の中には、自己破産の申立や破産手続き開始決定後の強制執行停止を受けて、差押えの申立を取り下げてくる業者もいます。

なお、元の強制執行事件について、送達場所の届出をしないと取り下げに関する書面も、そのまま債務者本人に送られます。

 

取り下げられれば良いのですが、そのような対応をしてくれず、停止とはいえ差押えが残っている業者については、差押えを取り消してもらう必要があります。

これが、債権差押手続取消です。

取消については、免責許可決定が確定した後に行います。

文書の本文自体は単純なもので、

御庁標記事件に関し、債務者が申し立てた破産手続開始申立事件(御庁令和○年(フ)第○号)において、令和○年月日に免責許可決定が確定しましたので、上記差押命令を取り消されたく上申いたします。

というような書面です。

 

複数の給与差押えによる供託

複数の貸金業者から裁判を起こされ判決が出ているような場合、給与の差押えが競合することもあります。

2社、3社から差押えをされるという事例です。

税金や養育費等の例外ではない債権者であれば、差押え禁止範囲は同じですので、複数の給与差押えをされても手取り給与額は変わりません。

ただ、会社側としては誰に払ってよいのかわからないため、供託をすることが多いです。

給与差押の停止、取消という流れの場合、この供託金取戻手続まで必要なことがあります。

この場合、取消手続の際に、供託金取戻までを盛り込んだ委任状を準備します。

さらに、供託金取戻の関係の上申書(請書つき)を提出しておきます。

 

なお、差押え自体が取り下げられていて、取下げ書原本がないなど資料が散逸している場合には、取り下げ証明をもらいます。

御庁標記事件は、令和○年○日取り下げられたことを証明されたく申請いたします

という書類に裁判所の印鑑をもらいます。

そのうえで、供託金交付の上申書を提出します。

御庁の下記債権差押命令申立事件は、申立の取下げにより終了しているので、供託金を債務者に交付されるよう上申します。

令和○年(ル)第○号 債権差押命令申立事件
令和○年(ル)第○号 債権差押命令申立事件

というように事件番号を列挙します。

 

 

差押え競合による供託金払渡請求

【払渡請求の必要書類】
・供託金払渡請求書
・委任状(記載から3か月以内のもの)
・債務者本人の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)
・全社についての取下げ書原本等
・全社についての取下げ通知書原本(供託番号が記載されたもの)

今回の手続きでは、裁判所から法務局へ委託書を送り、代理人宛には支払証明書を送ってもらい、取戻し手続きをして回収しています。

法務局へは
・供託金払渡請求書
・委任状(記載から3か月以内のもの)
・債務者本人の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)
・証明書原本

を提出しています。

 

給料差押えや、差押えの競合による供託までされている場合の自己破産手続きでは、このように提出書類・手続きが複雑になりますので、取り扱いのある専門家に依頼した方がスムーズでしょう。



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