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ケース紹介202 Iさんの事例

30代 /男性 / 自営業

借入の理由:事業失敗


神奈川県綾瀬市にお住まいの30代男性のケースです。

海外への輸出取引事業をしていたものの、うまくいかずに事業停止、債務の返済が難しくなったという相談でした。債権者からは免責に関する意見も出されるなど、解決までの期間が長かった事件の解説です。

この記事は、

  • 債権者から免責に関する意見が出されている
  • 綾瀬市で自己破産を考えている

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2022.6.22

 

自営業者の自己破産

自営業として開業し、事務所は神奈川県綾瀬市にある自宅を使用していました。

その後、事務所として、神奈川県海老名市の物件を賃借して展開。

翌年には海老名市の事務所が手狭になったため、都内にある親族が代表者を務める会社の所有物件を賃借して展開するようになりました。

 

在庫管理のための倉庫を賃借

貨物の保管スペースのため、都内で倉庫を妻の名前で賃借。
この頃までは、顧客も増え、事業は順調だったとのこと。

その後、燃油価格の上昇等により航空運賃の値上げ傾向が続く。

顧客離れを恐れて、航空運賃の値上がり分を荷主から受取る料金に反映させなかったため、利益が上がらず、輸送会社に対する航空運賃の支払に窮するように。

 

新型コロナウィルスの影響により、航空運賃の値上げに拍車が掛かってしまいます。

国際輸送の停滞によりかえって貨物が集中し、売上自体は伸びるが、十分な利益を得ることはできず。

荷主から受取る料金を値上がりした航空運賃に見合った金額に見直し、事業を立て直そうとしていた矢先、輸出した貨物の問題で、刑事事件に発展。

一時的に事業がストップしたこと、信用失墜により、支払猶予が認められなくなり、航空運賃の請求を一斉に受けたことにより、事業の継続が困難となり、廃業、自己破産の依頼となりました。

直前まで事業が続いていたこともあり、個人事業ではあったものの管財手続で自己破産の申立をしています。

 

在外資産についての報告

相談者が外国籍だったため、国外に資産があるかどうかの申告をしています。

自身名義の不動産・預貯金等資産と呼べるような物は何もなかったので、その旨を報告しています。

 

自営業の報告

自営業者の自己破産では、事業の内容、事業資産などを報告します。

倉庫として賃借していた物件は、解約し、明け渡していました。

在庫は何もありませんでした。

なお、この物件を妻名義で賃借していた点については、賃貸人側の意向で日本人を契約者とするよう求められたためであることを説明しています。

相談者自身の什器備品はノート・パソコンくらいで、資産と呼べるような物は何もありませんでした。未回収の売掛金や貸付金もなかったことを報告しています。

 

会計処理の誤記

青色申告決算書について、不明瞭な点がある場合には、補足説明の報告書を提出します。

従業員はいないとのことでしたが、経費として給料賃金の計上があったため、確認したところ、業務が多忙だった時期に同業者に外注をしたものとんことでした。

外注費で計上すべきところを、給料賃金で計上していたという内容です。

税理士が入っていないと、このような会計処理の誤記があることも多く、説明が必要になってきます。

 

債権者からの意見も強かったことから、破産管財人とは複数回の面談、質問書への回答を繰り返す流れで破産手続きが進められました。

相談者自身にも資料保管に問題があったため、手続が長引いたという事情があります。

 

 

帳票類の作成・管理状況

取引の際に生じる帳票類などのリストは、コンピュータに記録していました。

海外の運送事業者からメール添付の形で送られてきているものもありました。

相談者の売掛金については、前月分について、パートナー会社に対して、請求書を送付していました。この請求書も、コンピュータに記録していました。

 

売掛金について、破産管財人からの調査が入りました。

過去2年分の売掛金請求書のうち、相談者のもとにデータが残っている資料を提出しています。

取引している海外事業者が、共産主義国家で銀行も国が管理していたため、海外への送金に対しては警察の調査が入ることになるとのことでした。

そのため、売掛金の支払について、パートナー企業から相談者名義の口座に直接送金が行われるケースは少なく、在日外国人に依頼をし、同人が相談者名義の口座に円で送金してもらう手法が使われていました。

そのため、相談者にとってみれば、見知らぬ外国人名義の入金という形で売掛金の回収がされていました。

売掛金の支払は遅れることも多く、分割でされることもありました。さらに、現金での回収事例や、被害弁償分の控除事例もありました。

当然ながら、未回収売掛金は破産手続きで財産として申告する必要があります。

破産管財人からの求めにより、売掛金の請求と口座への入金を紐づけることは大変な作業でしたが、可能な限り対応して報告しています。

 

取引先の調査

破産管財人の指示に従い、主要取引先の連絡先等は開示しています。

管財人によって追加調査の必要性を検討することになります。

ただ、いずれの売掛先ともメッセンジャーやEメールにより連絡をとっていたところ、問題を起こした後、メッセンジャーは相手方にブロックされたためか、メッセージの送信を行うことができず、Eメール送信もエラーになってしまう状況でした。

このような事情もあり、売掛金の回収や今後の取引に関する相談ができていなかったことから、売掛金の回収が不可能と判断、事業廃止・破産申立てを決断したという経緯でした。

 

 

警察捜査による書類紛失

破産管財人の求めにより、過去の確定申告書の提出により売上等の報告をする必要がありました。

しかし、刑事事件の捜査の際、捜索を受け、警察によって室内を荒らされてしまい書類が紛失していました。

警察によって押収され、その後還付された物品の中にも、確定申告書等はありませんでした。

一部の資料については、回答が困難と報告しています。

 

破産管財人からの免責許可意見

債権者から免責に関する意見が出されました。

破産管財人等にも意見を出し、破産管財人からは、免責不許可事由はないとの意見書が裁判所に出されました。

 

債権者の意見書は、取引先によるものでした。

債権者意見書には、具体的にどの免責不許可事由に該当するかについての指摘はされていませんでした。

そのため、管財人からは免責不許可事由には該当しないとの意見が出されています。

なお、債権者からの意見を出す際、免責不許可の意見であれば、法律の免責不許可事由に当てはまるということを示す必要があります。

不法行為であるなどの主張は、非免責債権になるかどうかの判断であることが多く、免責不許可事由の意見にはならないこともあるので、区別する必要があるでしょう。

 

財産の隠匿に関する管財人意見

債権者を害する目的で行う破産財団の隠匿等(破産法252条1項1号)の該当性が検討されています。

破産申立時に一部の銀行の預金口座の存在を申告しませんでした。

長年取引をしておらず、通帳も紛失しており、解約済みと認識していたためでした。

預金口座の残高は僅少であり、長期間取引がなされていないことも確認されていました。破産管財人も、破産者が「債権者を害する目的で」財産を「隠匿」したものとまではいえないものと思料するとの意見を出しています。

また、破産申立時に未収の売掛金の存在を申告しなかった点について、回収不能との判断をしていたことなどから、申立時には申告から漏れることとなってしまったと説明しています。

管財人としては、破産者の説明に加え、結果としては破産者は自主的に本件売掛金債権の存在を申告したこと、本件売掛金債権が破産者の認識どおり回収が不能であったことなどからすれば、本件についても、破産者が「債権者を害する目的で」財産を「隠匿」したものとまではいえないと結論づけています。

 

帳簿隠滅・偽造等の行為についての意見

破産者の帳簿類(確定申告書、総勘定元帳、請求書等)の一部は紛失しており、また残存しているものについても、管財人の求めに応じて速やかに帳簿類を提出することができなかった点が指摘されています。

もっとも、この原因は主として破産者の保管体制の不備に起因するものと考えられ、破産者が積極的意思(故意)によって帳簿類を消滅させたとまでいえる事情は見当たらなかったとしています。

これらの点から、破産管財人としては、免責不許可事由はないとの意見を出しています。

 

裁判所も、破産管財人の免責意見と同じく、免責許可を出し、解決となっています。

債権者集会の開催も3回、管財人との打ち合わせも複数あり、資産がない個人の自己破産手続きとしては長くかかったものですが、無事に解決できて良かったです。



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